前原誠司が民主党の代表になって、選挙で負けたこの国の弱者たちは、さらに絶望の度を深くしているだろう。代表選に勝った前原誠司が、週末の政治番組で嬉しそうな顔をしながら宣言したことは、9条改正で党を一本に纏めるという公約であり、改革競争で自民党に負けないスピードとパフォーマンスを証明して見せるという決意だった。小泉政治の「改革」目標を小泉自民党よりも早く実現達成するから、もう一度支持を戻してくれと保守票に訴えているのである。「サンデープロジェクト」のスタジオに同席していた櫻井よし子は、「健全なご意見ですね」と破顔していた。民主党は自民党よりも一歩前へ出て、新自由主義革命の最前衛に立つから支援してくれと言っているのだが、総選挙までは4年もあり、参院選までも2年ある。国政選挙よりも先に1年後に民主党の代表選挙がある。前原誠司がそのまま代表を続けているかどうかは分からない。私から見れば、これは解散後に郵政民営化問題をめぐって岡田克也が犯した錯誤の拡大版であり、前原誠司の意に反して民主党はさらに支持率を下げるだろう。
ファッショ権力の拠点であるマスコミは、改革競争を宣言した前原民主党を絶賛している。翼賛政党化を歓迎しているのだ。前原誠司は政府の政策や法案に対しては必ず対案を出すと誓った。対案を出すということは反対をせずに翼賛するという意味だ。しかも従来のように消極的な翼賛ではなく積極的な翼賛をすると言うのである。具体的に言おうか。政府が郵政公社の民営化を2年後から着手して10年後に完全民営化する法案を再提出する。前原誠司は、それでは遅すぎるから2年後に即郵貯と簡保を全廃する対案を出す。政府がサラリーマン増税の07年度導入を国会に法案提出する。前原誠司は党内を一本化して、07年度では遅すぎるから06年度にすると対案を出す。政府が医療費の個人負担を4割に引き上げる法改正案を出す。前原誠司は、それでは改革が進まないから個人負担は5割に引き上げろと対案を出す。政府が08年度から消費税を10%に引き上げる税制改正案を国会提出する。前原誠司は、それでは財政再建にならず改革が進まないから、税率は20%にしろと対案を出す。
対案はマスコミに歓迎される。マスコミは歓迎するが、そうやって前原誠司が一生懸命「改革」の前進に貢献しても、2年後に参院選挙が始まった途端、三宅久之も岸井成格も田勢弘康も伊藤洋一も口を揃えて言うのだ。「政府案に基本賛成なら最初から黙って賛成票を入れときゃいいだろう」「対案のための対案なんか意味がない」「自民党の猿真似ばかりして政権を取る意欲が見えない」。かくて民主党は選挙に負け、前原誠司は新自由主義の革命指導者になりそこねた哀れな道化師として国民の記憶に残るに違いない。いずれにしても、小泉・竹中の新自由主義革命は、前原民主党という議会の援軍を得て、さらに権力を磐石化させ、過激な増税と福祉破壊の路線を推進することができる。
自殺者の数は年間4万人を超えて5万人に近づくだろう。無職者となり、生活苦の果てに自殺に追い込まれている日本人の真実は、新自由主義者のゲシュタポに捕縛されて収容所でガス処刑されているユダヤ人と同じだ。国に殺されているのと同じだ。今、年収300万円で食い繋いでいる「負け組」は、明日はガス室の運命である。
新自由主義のファシズムは、マスコミと野党第一党を束の中に入れた。「改革ファシズム」は止められない。と同時に、前原誠司が民主党代表になったことで、今後半年間の論壇は憲法9条改正をさらにアクセラレートするだろう。改正反対論がまた一段と異端化され苦境に立つ。改憲反対を堂々と言いにくい言論環境になる。小宮悦子とか、三雲孝江とか、小倉智昭とか、森本毅郎とか、心情的には9条改正に慎重、少なくともこれまでは遠慮がちにも「不賛成」のニュアンスを標榜してきた良識的なマスコミ人が、目の前で粗暴な右翼論者が「改憲当然」を国論として吼えまくるのを制止できなくなる。素通りさせざるを得ず、それが世論の多数であるかのような報道になるのを抑止できなくなる。生放送で反対論をぶつけられなくなる。議会三分のニ勢力の与党と野党第一党が9条改正を迫っているときに、中立が建前の報道人が改正反対の態度を貫徹するのは相当な勇気が要る。筑紫哲也と鳥越俊太郎の二人だけになるのではないか。今回、郵政民営化問題で嶌信彦が転向した。これは衝撃的で大きな事件だった。
半年間、9条改正を煽りまくり、十分に世論の地ならしをした後で、来年の国会に教育基本法改正案を出す。前原誠司の民主党は対案の提出を迫られ、党内で議論も準備もしておらず、意見集約ができないものだから、代表の独断で教育勅語をそのまま対案にして提出してしまうだろう。それは悪い冗談にしても、尾道で堀江貴文が吐き捨てていた言葉が説得的に響く。「民主党はただ政権を取りたいだけなんですよ」。民主党は政権に涎を垂らしている動物だ。性欲の塊の男が必死で女を口説いているのと同じだ。何の理念もない。前原誠司に理念があるとすれば、その理念は竹中平蔵と全く同じだ。小林憲司の覚せい剤事件には驚いた。前代未聞。民主党は一体誰が議員になっているのか分からない。テレビに顔を出す
軽っぽい若い
半芸能人しか知らず、ああいう連中ばかりだろうと思っていた。今回、広島六区と岐阜一区と静岡七区の民主党候補を見て、その無能と凡庸に唖然としたが、まさか覚せい剤常用者まで議員で抱えていたとは。粗製濫造、没理念、剥き出しの権力欲。こういう政党が支持を得られるはずがない。
これが
佐々木毅と
山口二郎と
後房雄の「政治改革」のなれの果ての姿だが、三人の政治学者様は何か言うことはない
のか。「負け組」屠殺収容所のガス室に入る前に一言聞いておきたいのだが。