今度の選挙は結果も経過もきわめて重大な歴史的事件であり、後で歴史の教科書に記述されるだろう。これからその意味をめぐって議論が続くだろうが、議論は十年間以上長く続くに違いない。いろいろな角度から意味づけすることができ、今後の日本の政治を予想することができる。この事件は必ず世界を変える、これから日本と自分はどうなるだろうと思ったのは4年前のことで、不安に苛まれながらネットの中を逍遥していた自分を思い出す。今度の政治的事件もそのときと同じかそれ以上の衝撃であり、頭の中を様々な想念と思考が溢れ、そのため脳の興奮状態が止まらず続いて、昨夜は明け方まで眠れなかった。眠れず、起き出して画面を起こし、また床に伏して寝つけずという時間を過ごした。睡眠不足のため頭は混乱し、意識は錯綜していて、うまく文章を結ぶ自信がないが、思い浮かんだ幾つかの観点を述べてみよう。キーワードが二つある。
今回の事件は「新自由主義による革命の勝利」だ。革命であると思う。革命とはすなわち、単に国家権力の上部での転覆や交代に止まらず、社会全体の人々の意識や思想、価値観や人生観のラディカルな転換を伴うトータルな政治変動を言う。今度の選挙で絶対的な革命権力を得た新自由主義は、何の躊躇も容赦もなく戦後日本が構築してきた福祉国家の諸制度を破壊、解体することができる。4年間の絶対権力というフリーハンドで可能な限りの社会保障の政府支出を削減するだろう。新自由主義の「小さな政府」の論理に従えば、社会保障費の政府予算ゼロの国家が理想なのである。政府が面倒を見る諸保険制度は全廃するのが理想なのだ。年金保険、医療保険、失業保険、生活保護。厚生労働省を廃止するのが目標なのである。社会的弱者の保護を政府の任務から除外し、国民の生活の権利(25条)を消滅させることが目的なのだ。
新自由主義の革命がめざす「自由と必然の王国」は、福祉という言葉がなくなった社会である。福祉という概念が制度と共に博物館に入る社会を言う。福祉は悪なのであり、福祉の思想や制度は駆除して抹殺すべき害悪なのだ。政府は社会を平等化してはならず、国民に平等な生活権を与えてはならず、逆に格差が最大限開くように方向づけしなければならない。給付はゼロにして、税金は平等にする。累進課税制度は廃絶し、できれば所得税そのものも廃止して人頭税にする。国民は一律定額の人頭税と消費税を払う。法人税も廃止する。閣僚として政府に入る前の話だが、竹中平蔵はテレビで大真面目に所得税の廃止と人頭税の導入を主張していた。人頭税という言葉を聞いて、私は世界史の授業で習った明の一条鞭法を思い出し、人頭税なんて考え方が現代の税制を議論する場で持ち出されるのに驚嘆したのだが、今度の革命でその方向が固まった。
「革命」という言葉と並んで頭に浮かんだもう一つの言葉は「ファシズム」だった。私の頭の中では、今回の政治の経過と結果は革命とファシズムという二つの言葉で納得的に表象される。ファシズムという言葉以上に現在の政治を説明する適当な言葉はない。具体的に言おう。今の「改革」という言葉は、まさに戦前の「国体」と同じ魔力を持って機能している。そう思わないか。眼前の風景はまさに「
改革護持」「
改革明徴」のファシズムの世界であり、「改革」に反逆する者は国賊として袋叩きにされる時代である。報道番組で「小泉改革」に疑義を唱えた者は、
古館伊知郎やみのもんたなどの暴力的で非知性的な仕切が売りのキャスターによって罵倒され、強引に発言を遮られ、スタジオ配下の評論家によって集団リンチの目に遭わされる。「改革反対派」のレッテルを貼られ、テレビで発言する資格を奪われる。「小泉改革」はマスコミにおける絶対正義なのだ。
没落する中産層が「強い指導者」の幻像にすがり、救済と革新を求めて独裁権力に期待を託す政治構図は、30年代のドイツや日本のそれと本当に酷似している。憲法の言論の自由がありながら、政権が主導する「改革政治」には無条件の翼賛以外に許されないという状況は、実にワイマール体制下のドイツのファシズムを想起させる。けれども、私が今の日本が当時のドイツより悲劇的で欺瞞的だと思うのは、少なくともヒトラーは、主観的にはドイツ人に豊かな生活を与えようとして、ユダヤ人の民族虐殺と財産没収、スラブ人の奴隷化とウクライナのレーベンスラウム化を遂行したのであり、失業対策のためのアウトバーン建設などニューディールまがいの公共事業もやっている。わが国のファシズムの指導者は、そうではなく、国民から富を収奪し、国民の生存権を直接に奪い取っているのである。その小泉首相の「改革政治」に帰依して、神様のように崇めて一票を入れているのだ。小泉首相はヒトラーよりも欺瞞的で悪魔的だ。
そして現在の日本国民は、当時のドイツ国民より愚かで哀れで悲劇的だ。
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