今度の新内閣では首相と外相と官房長官の三人が揃って靖国神社に参拝する。中国との間で交わしていた靖国参拝に関する
紳士協定を完全に反故にするわけで、日中共同声明の事実上の破棄通告に等しい。今朝の朝日新聞の
社説も早速この問題を取り上げて警鐘を鳴らしていたが、しかし、こういう政権を作るべく選挙で国民を誘導したのは一体誰なのだ。選挙期間中、ずっと小泉自民党の「改革」を宣伝しまくって、野党を「改革反対」の「抵抗勢力」に仕立て上げ、非難を浴びせる報道番組を流していたテレビ局はどの新聞社の系列局なのだ。毎晩毎晩、小泉自民党の「郵政民営化」と「構造改革」をヨイショしていた頭の悪いB層向けキャスターの横で、何も言わずに「改革」プロパガンダを復唱させていた論説委員はどこの新聞社の幹部なのだ。このブログをようやく読み始めた朝日新聞の人間もいるようだが、朝日新聞はあまりに欺瞞的すぎやしないか。本気で政治の右傾化を憂慮するのなら、まず報道番組のキャスターを変えたらどうなのだ。
昨晩の組閣ニュースを見ながら特に印象深く感じたのは小池百合子と猪口邦子の二人の女性閣僚の映像で、指名されて官邸に入るとき、小池百合子の目は屈辱で真っ赤に潤んでいたし、猪口邦子も落胆した表情で憮然としていた。二人とも小泉首相に裏切られたのである。約束を反故にされた。二人を見ながら、私はブログで物議を醸した例の「
愚直と不良」を思い返していた。この記事は今でも
余韻を
引いている。新閣僚記者会見のとき、猪口邦子の不機嫌は誰の目にも明らかだった。学者として順風満帆の人生を歩み、輝かしい栄誉と賞賛に包まれてきた猪口邦子にとって、この日の大臣拝命はまさに侮辱と忍耐そのものであっただろう。二ヶ月前に小泉首相から総選挙立候補の要請を受けたとき、見返りに約束された報酬は当然ながら外相ポストであったはずだ。ところがそれは得られず、口約束は反故にされてしまったのである。手の平を返されたわけだ。恐らく今度は小泉院政後の、つまり来年のポスト小泉政権の外相を口約束されたのだろう。
小池百合子の場合はもっと悲惨で、環境相留任はすなわち無報酬である。地元支援者の反対を押し切ってリスクの高い国替え選挙を応諾し、刺客候補に最初に手を挙げて郵政民営化選挙を盛り上げ、反小泉の中核であった小林興起を叩き斬って勝利に貢献した功労者であるにもかかわらず、結果は無報酬。しかも幹事長だの官房長官だのとマスコミ辞令に踊らされた挙句のこの醜態だから、小池百合子の胸中たるや察するに余りある。その幹事長とか官房長官とかのマスコミ辞令だが、単にマスコミ辞令だけだったのではなく、ひょっとしたら一つの寝具の中で耳元で囁かれていたピロートーク辞令でもあったのではないのか。そう思わせるほど官邸のアプローチを歩む小池百合子の表情は惨めさと悔しさに溢れていた。その失意と動揺を新閣僚会見でも隠せず、こわばった顔で事務的に済まそうとしていたが、ある記者から「幹事長とか官房長官という声もありましたが」と声が上がったとき、初めてにこやかな笑顔を取り戻して、感情のバランスを回復した。
この(苦笑を誘う)分かりやすさが小池百合子の可愛らしさである。であると同時に世間の女たちから嫌われる(媚びて身を売る女の)ジェンダーコンサーンな部分でもある。男たちは順当に論功行賞を受け取ったが、女たちには裏切りと辱めが与えられた。ジェンダーをめぐる小泉劇場の終幕である。所詮は使い捨てなのだ。これが今後の内閣支持率にどう響くだろうか。男女共同参画・子育て特命大臣などと言っても、内閣府に狭い小部屋が一つ与えられて、スタッフが何人か付けられるだけだろう。しかもたった一年。付き人になったスタッフ(各省庁からの若手出向官僚)も本気にはしない。国際会議もない。大臣室で一年間新聞の切り抜きでもやるのだろうか。要するに閣議の席に座るお飾りの花一輪。女は徹底的に小泉首相にバカにされたのだ。ノセられてその気にさせられ、甘い夢を見させられて、最後にはポイと棄てられたのである。サプライズの無かった組閣人事は、極右シフト内閣であり、事前の予想から較べれば派閥均衡回帰の内閣である。
予想していた野田聖子の復党と入閣は無かった。野田聖子はあらん限りの恭順を示して小泉首相に命乞いをしていたが、結局は離党勧告の厳罰処分となった。が、この事は
政局予想で述べたとおり、来年のポスト小泉に間違いなく影響を与える。結論から言えば、小泉首相は野に虎を放ったのと同じだ。野田聖子をカードとして捨てた以上、ポスト小泉は公選になれば安倍晋三以外にない。他の候補が総理総裁になるためには小泉首相からの直接指名を受けなくてはいけない。後継指名が無ければ、議員選挙だけでも安倍晋三の圧勝だろう。安倍晋三が来年総理になれば小泉院政は難しい。完全に隠居の身になる。80名の新派閥(小泉派)を持ちながら果たして隠居するだろうか。谷垣禎一や麻生太郎なら操縦は可能だ。特に谷垣禎一ならロボットのように動くだろう。だが、谷垣禎一や麻生太郎では選挙に勝てないのである。この二人が党の顔では風は民主党に吹いてしまう。再来年の参院選で民主党に負ける可能性が高い。選挙で負ければ元も子もない。
選挙で勝とうとすれば安倍晋三、イエスマンなら谷垣禎一、両方とも具合が悪いのが麻生太郎という順番になる。ところで
この表を見て欲しい。確かに自民党の中の派閥体質は弱まって、ボルシェビキ型の個人崇拝の民主集中制に移行しつつあるかに見えるが、中身を見ると派閥はなお厳然としてある。新聞を読むと、今回の組閣人事で派閥が完全無視されたことで何人かの議員が怒り狂い、党本部の武部勤のところに押しかけたという記事も出ていた。抵抗勢力の火種は党内で残って燻っているのだ。丹羽雄哉とか大田誠一の名前が出ていたが、小泉独裁を転覆しようとするクーデターの芽は間違いなくどこかで出始めている。来年、小泉首相が総理を辞任したとき、衆院での首班指名選挙で多数を獲得した者が総理大臣になる。民主党は113票を持っている。自民党の中が割れ、反小泉の候補が立ったとき、民主党の票がそこに流れる可能性はゼロとは言えない。小沢一郎や平沼赳夫はそれ(反小泉の政界再編)を狙って地下で暗躍しているだろう。
クーデターが成功するのは、①自民党の中で反旗を翻した反小泉議員、②離党させられた元自民党議員、③クーデターを後押しする民主党議員、この三つでポスト小泉の首班候補の票に勝る数を取れた場合になる。その場合、私は野田聖子がクーデター勢力の暫定首班として担がれるのではないかと予想している。野田聖子に勝る神輿の適材が他にいない。クーデター三派を束ねて裏で操るゴッドファーザーは小沢一郎。現在の政治情勢下では奇跡に近いが、もし仮に野田聖子首班の反小泉クーデター政権が実現すれば、その内閣の官房長官は田中康夫になるだろう。クーデターの実現性を媒介するのは、一つは内閣支持率で、さらには支持率に関係する閣僚の失態や失言である。また政権内部の不協和音である。現状のままでポスト小泉に平穏無事に繋がって、五年も十年も小泉院政を続けられたら、派閥の連中は身が保たない。大臣にもなれず、地元への予算配分権は取り上げられ、挙句に抵抗勢力にされて討滅される運命が待っているだけだ。謀反のギャンブルに動く人間は必ず出て来る。