女系天皇についての世論調査が朝日新聞に続いて
共同通信からも発表された。数値結果は朝日新聞の調査と殆ど同じで、女系天皇容認が71%、男系天皇維持の16%を大きく上回っている。共同通信の調査は朝日新聞の調査から一週間以上経過した後でのものである。右翼が言うところの「世論における女性天皇と女系天皇の混同と無知」が事実であったのなら、この数字はもう少し変動していてもよかっただろう。朝日新聞の調査項目における質問文を見ても、女系天皇についての説明は過不足なく与えられていた。右翼の主張には根拠がない。国民は現在の天皇御一家の血統がそのまま続いて今後も皇室が繁栄することを願っているのであり、男系血統の(共同幻想の)切断よりも現在の皇室の直系継承の切断の方を危惧しているのである。六十年も昔に臣籍降下して氏素性の怪しくなった旧宮家の人間が急に皇族に復活して、右翼の政治勢力を背景に「俺のY染色体は正統遺伝子だから俺の孫を天皇に据えろ」と言い出す事態をこそ恐れているのである。
立花隆も
強調しているが、憲法第1条にあるように天皇の地位は国民の総意に基く。これはゾルレンの問題であると同時にザインの問題でもある。国民の総意に基くという要件を得られない者は天皇の地位には就けない。法学者の立場によって議論はあるが、憲法は国の最高法規であって、憲法の条規に反する法律はその効力を有しない(憲法98条)。皇室典範も一法規として憲法に従属する立場にあれば、憲法第1条を尊重して現在の象徴天皇制の理念に従って典範のあり方を変えるべきであり、さらに憲法第14条の法の下の平等の原則にも従うべきだろう。憲法第2条は「
皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と規定している。世襲の内容は皇室典範によるのであり、国会で典範を改正すれば手続きはそれでよい。何れにしても「
天皇の地位は国民の総意に基く」という象徴天皇制の原則は不可抗力的な命題であり、遺伝子の正統性があれば天皇の地位を得られるということは絶対にあり得ない。
民主主義国家の王室においては国民の総意の原理が血統の原理に先行する。やむを得ないのだ。だから六十年前の象徴天皇制への移行こそが日本の国家と天皇制において決定的に重大な歴史的転機だったと言えるのである。愛子帝の結婚や子息に不具合があれば、将来の政府は直ちに典範を改正して愛子帝の子の皇位継承を撤回する措置に出るだろう。皇室典範は国民の総意に従うのであり、国民多数の支持が得られなければ象徴天皇制は維持できない。私の見るところ、女系天皇は天皇皇后両陛下の強い意思を震源としている。それには理由があり、それは何かと言うと、雅子妃をこれ以上苦しめてはならぬという使命感からの動機だろう。男系維持を継続させれば雅子妃への精神的重圧はさらに続く。重圧は紀子妃にまで及ぶ。今後、右翼が「つくる会」を拠点に男系存続の世論を拡大させる政治運動に出た場合、恐らく天皇陛下は、機先を制する形で女系容認答申の政府方針を支持する言葉を発するだろう。典範改正は来年の通常国会での日程になっている。
今年の天皇誕生日でのお言葉が里程標になるのではないか。それまで二週間。共同通信の次は日経新聞だろうか。さて、女系天皇を排斥する右翼の論拠の一つに、男系血統の天皇制が日本の文化的伝統であるからという主張がある。二千年間守ってきた日本の文化的伝統を破壊するなという議論である。Y染色体の生物学的継承の「共同幻想」にどれほどの文化的伝統の価値を見出せるのかは不明だが、この問題で重要なのは、天皇家や皇室の人間の使命というのは日本の文化的伝統を守ることが第一なのかどうかという本質的問題だろう。皇室は文化的存在であると同時に政治的存在である。天皇と皇室の本義は
憲法第1条に示された「
日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」であることである。日本国の元首として外国から尊敬を受けること、日本国民が一つに纏まって信頼と尊敬を寄せる象徴として存在を示すこと。そのことが最も重大な天皇の任務であり、象徴天皇制の核心であり、それ以外の事は二の次なのだ。文化的伝統よりも国家的責務。
皇室も天皇制も単なる文化的存在ではなく、伝統継承だけの博物館的存在ではない。歌舞伎や大相撲とは違う。生(なま)の日常の行動と態度で国民の信頼と尊敬を集めることが仕事だ。日本を一つの家族のように纏める中核の存在になることだ。天皇と皇室は現役の政治的存在なのである。右翼の主張を聞いていると、天皇や皇室の人間というのはどんな木偶でも不良でもよく、単にY染色体の継承という(生物学的共同幻想の)伝統保持に奉仕奉職する人間であればよいという極論になる。皇族の男と結婚する女は、無知でも下品でも何でもいいから、とにかく男の子を産んでいればそれでいいという極端な結論になる。子産み道具。女系容認は皇室の女性を子産み道具の地位から解放するという主張がある。男子出産の心理的圧迫と強迫観念から女性を解放するという人権上の目的がある。有識者会議で女系容認を主張した一人は緒方貞子ではなかったか私は思うが、緒方貞子は美智子皇后と大学の同窓で親しい間柄だと聞く。(右翼は懸命に否定しているが)女系容認が皇室の意思であることは疑い得ない事実であろう。
天皇だから彼を国民が尊敬するのではない。彼が人間として立派だから国民が彼を天皇として認めて尊敬するのである。皇室を崇敬する日本国民は、答申を支持して女系天皇を容認するべきである。