来年9月に行われる民主党の代表選挙で果たして前原誠司は代表に再選されるのだろうか。代表選は今年9月と同様に両院議員総会の形式で行われると思われるが、前回、菅直人を二票差で破った勢いをそのまま維持して再現できるのかどうか、最近の動向を見ているとどうも怪しく見える。通常であれば、若い指導者が代表の座に就けば、そこから新しい党内基盤が徐々に固まるもので、政権磐石化に向けての布石が打たれ、党内党外での認知が進んで行く。前原誠司もそれなりに権謀術数を駆使して、次の衆院選の公認候補者の絞込みを始めたり、菅直人をテレビから締め出すべく広報戦略を固めたり、さらに外遊したりして、様々な手は打ってきたのだが、見たところそれらは基本的に裏目に出て、結果的に権力基盤を固める方向に奏功していない。今、この時点で代表選をやっても前原誠司は菅直人に敗れるのではないか。来年9月までに前原執行部は「死に体」になるのではないかと予想する。
考えてみれば、今年9月の代表選の結果そのものが、小泉ショックの異常な状況の中で媒介されたものであり、結党以来の大敗北の衝撃を受けて、若い新しい顔を即刻立てなければ民主党が壊滅するという危機感が党内に漲っていた。瞬間的な緊張の空気に覆われていた中での選択であり、少し時間が経って冷静に考え直せば、あの選択でよかったのだろうかと議員の誰もが思い始めるのである。代表選から三ヶ月後の党大会は、この間に獲得した新体制支持の成果を内外に提示して評価を受ける絶好の機会のはずなのだが、報道を見るかぎり、どうやら逆の結果に終わっている。前原体制を支持しようという強い声が聞こえて来ない。路線の修正や暴走の抑制を求める声ばかりが耳に入ってくる。官公労と敵対して決別するのは前原誠司の積年のイデオロギーだからひとまず不問に付すとして、支持基盤の問題で最も深刻だと思われるのは、前原誠司が朝日新聞から支持されていない点である。
この点は重大なのではないか。前原誠司が新代表に就任して、その翌日から憲法9条改正と集団的安全保障容認を言い始めた時点で、朝日新聞は前原新執行部の前途を懸念する論調で記事を書き始め、党内に燻る反対論や慎重論に光を射てる態度を明らかにしていた。三ヵ月経って、前原誠司は朝日新聞の「警告」に耳を傾けるどころか、無視したまま改憲論のボルテージを上げ、遂には
中国脅威論まで公言する始末で、中国の政府と国民から反発を買うという失態をやらかしてしまった。前原誠司の政治思想、特に安保外交の主義主張は、産経新聞や読売新聞が歓迎するものであり、朝日新聞の記者や読者の信条とは相容れないものである。朝日新聞は前原誠司が(もう少し大人になって)軸足を左寄りに移すことを期待したのだろうが、党大会ではその方向の妥協は無かった。あくまで強気で小泉政権と改革競争と改憲競争をやり抜くと言っている。遂に朝日新聞は前原誠司の政治手法に対して批判を始めた。
今日の朝刊四面では
「<自民と同じ>焦る党内」、「譲らぬ姿勢<ミニ小泉だ>」、「民主党大会、前原流に批判集中」などの厳しい見出しが躍っている。さらに
「菅・小沢氏、独自の動き」の記事もある。前原執行部を支援しようとする基調ではない。こういう記事が並べば支持率はまず低下する。民主党のサポーターである朝日新聞がこのように平然と民主党の執行部批判の記事を書けるのは、次の代表選のある来年9月までに国政選挙がなく、現状のままでは前原誠司は代表選で再選されないだろうという確実な予想を持っているからに違いない。小沢一郎と菅直人の周辺から情報を集めているのであり、またこの二人の思惑に従って記事にしているのであり、民主党の主導権(多数)は依然として菅直人と小沢一郎が握っているという情勢分析がある。すなわち朝日新聞の認識においては、すでに前原誠司は「死に体」なのだ。見捨てていて、その先を見ているのである。その小沢一郎は傲然と党大会を欠席した。
私なりの分析を加えると、ここで浮上するのが、例の小泉首相が前原誠司に打診したと言われる「大連立」の問題で、前原誠司はそれを「99.99%ない」と言っていて、逆に言えば「0.01%はある」という意味になる。可能性を否定していない。党大会初日では、海江田万里がこの点の疑惑を糾して怒鳴り声を上げたらしい。恐らくだが、前原誠司は、来年9月の代表選での再選可能性を睨みながら、同時に右派を割って自民党に合流する道を模索しているのだろう。真意は即ちポスト小泉狙いなのだ。ポスト小泉の(安倍晋三に次ぐ)二番手の位置を狙っているのである。仲間を引き連れて合流して、改憲を断行するから、俺に総理をやらせろと小泉首相に秋波を送っているのである。そして小泉首相は、前原誠司をポスト小泉の(水面下の)対抗馬に据えることで、本命の安倍晋三を牽制しているのだ。俺には前原カードがあるぞと暗に安倍晋三を脅しているのである。前原誠司なら安倍晋三の対抗馬になり得る。大連立の可能性は十分ある。
なぜなら保守側に残された最後の政治課題が改憲で、これを遂行するためには大連立が最も具合がいいからだ。