耐震強度偽装事件で警察の強制捜査があり、テレビを見ていたら、見慣れた顔の弁護士たちが出て来て「詐欺罪に問えるかどうかが鍵だ」などと言っていた。昨夜の「報道ステーション」の電話取材に応じたヒューザー社の小嶋社長は、「ぜひ証人喚問に出させてもらいたいが、私が国会に出ると都合の悪い国交省のお役人が何人かいるんでしょう」と、まるでテレビ局が用意した台詞を読んでいるのかと思うほど(B層視聴者が喜ぶ)挑発的発言をしていた。証人喚問は必要だし、その方向で世論を盛り上げて、一連の建築詐欺集団を庇護し、問題がゼネコンと国交省と族議員に及ばないようにブロックしている自公政権を追い詰めなければならないが、私がニュースを見ながら率直に思ったのは、詐欺罪でさえ軽すぎるのに、その詐欺罪でさえ問えないかも知れない言っている弁護士たちの感性の問題だった。そういう報道を見ていると、何となくこの問題そのものが一つの大きな猿芝居(見せもの)のように感じられて仕方がない。
単にそれを報道娯楽のショーとして見させられているだけではないのか。裏に誰かの意図があり、他の報道や関心をマスクするための謀略的な仕掛ではないのかという疑惑を拭えないのである。捜査までの時間の長さを考えると、姉歯秀次以外の中悪たちは財産を隠すのに十分の余裕があっただろう。ブログで何を関心の対象に据えるかというのは大事な問題で、ブロガーの個性の問題もあるのだろうけれど、私自身は、マスコミが国民一般に与えるニュース報道のプライオリティやシェアや価値判断に対して、それを鵜呑みにして付和雷同するのではなく、常に懐疑的な態度で事件報道の裏と全体を読み解く理性が必要なのではないかと思っている。今年は後半を小泉劇場一色に塗り潰されてしまい、そこに全ての関心と意識を集中させられ、選挙以前に何があったのかをすっかり忘れてしまっていた。TBSで放送していた関口宏の特集番組を見ていて、あらためてそれを痛感させられた。9・11から時間が止まっている。
そのことを反省しながら一年を振り返る作業を始めたいが、関口宏の番組で印象的だったのは、JR福知山線の脱線事故を丁寧に取り扱っていたことで、この報道姿勢には率直に好感が持てた。ニ両目の車内から奇跡的に救出された被害者の青年が、事故当時に身に着けていてずっと箱の中に仕舞い込んでいた血だらけの衣服や壊れた時計と直面するという場面があった。事故が起きた車内で両足を挟まれて閉じ込められ、その上に意識のない女性が折り重なり、いくら呼んでも目を覚まさず、その体がだんだん冷たくなって行った様子を生々しく証言していた。情景を言葉にして再現しながら、他の多くの人間が死に、自分だけが助かってよかったのだろうか、自分の方が死んだ方がよかったのではないかと思うことがあると嗚咽しながら苦しい心境を明かしていた。命はとりとめても事故で心を苦しめられ続けている。見ていて気の毒で仕方がなかった。JR尼崎駅の脱線事故では107名の人が死んだ。
垣内社長はまだ辞めていない。
テレビや新聞は夏以降ほとんど続報をしていない。刺客選挙で関心が中断され、今は国中が姉歯事件で騒いでいる。私がいちばん記憶に残っているのは、事故から何日か経って現場に献花に訪れた帽子をかぶった小さな男の子の写真で、確か祖父に手を引かれていたのだと思うが、母親を事故で亡くしていた。その子の家は母子家庭で、母親は子どもを保育園に預けて、仕事に出かけるために電車に乗っていた。よく詳しく覚えていないが、そういう悲しい話があった。事故が起きた瞬間、母親は残した子どものことを思ったに違いないけれど、一体どんな思いだっただろう。この事故では大量の犠牲者が出て、そのため多くの孤児が出たというニュースになっていた。関口宏の番組でも出ていたが、その日、事故発生を知りながら、JR天王寺車掌区は社員43人で昼間からボウリング大会に繰り出し、二次会までやって盛り上がっていた。同じ日、JR西日本の車掌や運転士らで作る親睦団体が篠山で宴会をやり、そこに民主党の衆院議員が招待されて一緒に酒を飲んでいた。神戸支社ではニュースを見ながらゴルフコンペを続けていた。
事故後、JR西日本を叩く報道が続き、記者会見で幹部に対して恫喝を繰り返す記者の映像などもあったが、半年すぎて、被害者やJR西日本や調査委や捜査本部の関連情報を詳しく続報しているマスコミはない。
垣内社長は「一定のめどがついた時期に辞任する」と言ったまま、現在もJR西日本の社長職にとどまり続けている。
HPで「遺族・負傷者のネットワーク」が情報発信をしているが、どことなく弱々しく頼りなげな感じがある。
警察は時間をかけて関係者の事情聴取を進めているが、立件の目途はまだ全く立っていない。鉄道事故調査委員会の
中間報告も間の抜けたアリバイ的な印象のもので、JR西日本の刑事責任追及に本気で役立とうとしているのか疑問に感じる。あのとき、テレビによく顔を出す弁護士たちは、口を揃えて、幹部は業務上過失致死で刑事責任は必至と言っていた。組織として安全確保を怠り、危険運転を放置していた不作為の責任が問われると言っていた。時間が過ぎ、まさか垣内剛が不起訴になるなどということはないと思うが、信じたくないが、JR西日本の
HPでは垣内剛が写真入りで経営理念を語っている。
神戸新聞 特集 尼崎JR脱線事故
朝日新聞 特集 尼崎・列車脱線事故