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本と映画と政治の批評
by thessalonike2


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八達嶺長城の回想 - 中国の国民統合の象徴としての万里の長城
八達嶺長城の回想 -  中国の国民統合の象徴としての万里の長城_e0079739_15364821.jpg万里の長城を紹介したNHKの「世界遺産」の番組が楽しく、よく作っているなあと感心したのは、長城へ至るアプローチから丁寧に紹介してくれたことで、八達嶺を観光した経験を持つ者にとっては懐かしい映像の再現だった。北京市内から八達嶺までは高速道路で一時間半ほど、約70キロの距離を北西方向に走ってゆく。テレビで出ていたように、高速道路の標識の仕様が日本のものと全く同じで、例えば緑の地に白で大きく「出口EXIT」などと書かれていて、設計工事した技術者たちは80年代に日本で土木建設を研修した経験があるのだろうかなどと勝手な想像を膨らませながら、それを見るのが楽しかった。途中の車窓は、一言で言えば、燕の国の荒涼とした風景で、のどかな田園や豊かな森林が広がっているのではなく、石ころや瓦礫が無造作に転がっている無機質でモノクロームな岩山と大地であり、乾燥して殺伐とした荒地に貧相な石垣が組まれて、その上にみすぼらしい家と言うより小屋が建っている。



八達嶺長城の回想 -  中国の国民統合の象徴としての万里の長城_e0079739_15401911.jpgドラマ「大地の子」で見たあつ子の家と同じ薄汚い貧しい人家が沿道に点々としていた。それは北京市街から八達嶺の中間地点で見た現実だが、そこからわずか30キロほど市街に寄った場所では、地上40階建の超高層マンションが車窓を埋め尽くすほどに群れをなして建ち並んでいる。それは五年前の話だが、まだ竣工したばかりの新築ビル群で、ピカピカと誇らしげに林立していて、日本で喩えて言えば、新宿の高層ビルが何十本もこれでもかと建ち並んでいるのと同じ圧倒的な光景だった。北京の最近の高層ビル群は、中国の人口の多さと経済の高度成長の迫力をわれわれに教える。そして超高層マンションと「あつ子の家」とのコントラストは、恐るべき貧富の格差を私の目の前に突きつけて絶句させた。番組での八達嶺長城の紹介も、実に観光客の目線と実感そのものでよかったが、私の記憶にあるのは広い広い駐車場で、あの広さは日本で喩えばどう表現すればいいだろうか。先が霞んで見えない。

八達嶺長城の回想 -  中国の国民統合の象徴としての万里の長城_e0079739_1540399.jpg幕張の駐車場の十倍以上ある。それでもその駐車場が大型バスで満杯だった。だから長城の上の回廊は原宿の竹下通り状態なのである。今回の番組でも人の混雑ぶりを取材していたが、私が行った五年前はもっと人が多かった。前も後も右も左も人だらけで、人しか見えない。押されながら人の背中を見て前へ歩くだけ。回廊の側壁から北と南を遠望するとか、長城全体を展望して風趣に浸るなどという余裕はとてもなかった。楼台の中は混雑の極みで、私は疲れてそこから先の傾斜を上るのを中断したことを思い出した。そしてテレビで紹介されていたとおり、そこには無数の浮き浮きとした中国人観光客がいたのである。彼らは全く疲れた様子がなく、元気いっぱいだった。そして長城を自分の目と足で直に確かめたことに満足している表情を見せていた。西安の兵馬俑は欧米の団体観光客が多かったが、万里の長城は、欧米観光客も間違いなく多かったはずだが、それも消し飛ぶほどに国内からの観光客が多かった。

八達嶺長城の回想 -  中国の国民統合の象徴としての万里の長城_e0079739_15373076.jpg私も彼らの嬉々とした表情が実に印象的だったが、そのときはそれほど深くその問題を考えなかった。貧しかった人々が国内旅行できるほどに豊かな中産層になり、昔の日本の農協団体旅行客のように燥いでいるのだろう程度に思っていた。NHKの番組はそこを見事に(思想史的に)掘り下げて、なせ彼らが混雑する長城の中であのように至福の笑顔をしていたのかを解説してくれていた。長城は中国の国民統合の象徴なのだ。日本の天皇である。始皇帝が長城を作った本当の目的は、匈奴から領土を防衛するためではなく、壁を作ることで壁の内側を一つに纏めるためだった。軍事的目的ではなく政治的目的で長城を作ったのである。城壁によって境界が作られ、境界の内側が一つの中国世界となった。長城建設は始皇帝の中国統一事業の大いなる一環であったのだ。長城観光で個人的に忘れられないのはトイレ体験で、ガイドさんに教えてもらって入った厠には手を洗う水道がなかった。中国ではトイレに苦労をする。

八達嶺長城の回想 -  中国の国民統合の象徴としての万里の長城_e0079739_15374127.jpgで、私はどうしたかと言うと、そのガイドが二十代の若い女の子であったため、彼女の目の前で資生堂のウェットティッシュを取り出して手を拭くという恥ずかしい真似をしなければならなかった。顔には出さなかったが、お互いに気まずい思いをした。中国のトイレ事情は予想した以上に悲惨だった。西安のレストランで見た便器も強烈だったし、ホテルのそれも決して旅行客が満足する清潔度を満たしていない。最もショックだったのは西安の陝西省博物館で、その博物館はまだ真新しい建物で、トイレの内装も設備も日本の新築の博物館のそれと同じくピカピカだったのだが、その使用状態が想像を絶するものだったのである。一昔前の国電の山手線の駅のトイレよりはるかに不潔だった。清掃はしているのだろうが、利用者の使い方がひどい。この経験は、やはり中国再訪の動機を抑制する一つの要因となっている。中国には行きたいのだが、果たしてその方面での向上は果たされているだろうか。実際を言えば、トイレだけでなく食事やサービスの品質も劣悪だった。

NHKの番組での万里の長城の紹介は、今週、第二回目の放送がある。お見逃しなく。
八達嶺長城の回想 -  中国の国民統合の象徴としての万里の長城_e0079739_15375512.jpg

by thessalonike2 | 2006-01-13 23:50 | 靖国問題・日中関係 (9)
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