意外に早かったライブドア新体制発表の意味は、整理ポストだけは勘弁してくれという東京証券取引所へのメッセージだろう。LD傘下企業の顧客や個人株主に向けてのメッセージではない。実業経験のある六十歳の平松庚三を立てて、堀江貴文のダーティで傍若無人なイメージを消して、紳士的で常識的な企業として再出発する姿勢を東証にアピールしているのだ。要するに上場廃止をされたくないのである。何故なら、これからライブドア本体を売らなくてはいけないから。ライブドアを企業体として存続させて外資に売却するためには、整理ポストに入れられては困る。東証がライブドア株を整理ポストに入れない理由(口実)を作るために平松庚三の新体制が必要なのだ。竹中平蔵の差金だろう。還暦のシニアが新社長に就いたところで欲ボケから目が覚めた個人投資家がLD株に戻ってくるわけではない。金融商品としてのLD株に価値が戻ったわけではない。また、ライブドアにはそもそも得意先企業に製品やサービスを売るビジネスモデルがない。
傘下企業は多くあるが、それらは全て株を売るための道具であり、関連企業の実業を拡大させようという経営の動機をそもそもライブドアは持っていない。傘下企業に収めて社名にLDブランドを付け、そのブランドで株価を高騰させながら分割し、株を市場で大量販売して儲けるのが目的である。ライブドアにとっての真の顧客は欲ボケした個人投資家(信者)であり、ライドアにとっての需要は個人の欲得なのだ。買収する企業の中身はどうでもよく、規模が小さくて、経営状況が悪くて、株価が低くて、発行株式総数が少ない企業であれば都合がよかったのである。買収と同時に従業員も整理した。コストだから不要なのだ。最初から実業で利益を上げることを考えていない。技術開発や製品開発に興味がない。得意先を開拓しようとも思っていない。社員の平均在籍期間は一年で、平均年齢は三十歳。平均年収五百万円。企業買収と株式売買が本業であり、いまさらマチュアな経営者を据えたところで、ビジネスモデルを転換できるとは思えない。
ライブドアの現在の企業資産は現金だけである。信用はない。技術もない。人材もない。顧客もない。会社の価値は保有する異常に巨額な現金資産だけだ。だから、ライブドアを買収する企業の目的はその現金を鷲掴みにすることである。平松庚三は「身売りは考えていない」と言っているが、これは真意ではないだろう。今後の捜査で脱税容疑等の余罪が浮かんで熊谷史人が逮捕されればどうするのか。もし本当に体制を一新して出直すつもりなら、堀江貴文や岡本文人は取締役を辞任するのが当然だし、堀江側近の熊谷史人が代表取締役に就任するのは納得がいかない。本日(1/25)の株式相場を睨んでのその場凌ぎの印象が強く、捜査の進展に伴って、さらに第二幕の局面が続くように思われる。検察の捜査を冷静に眺めれば、LDという企業に対してすでに死刑判決が下されていて、存続を前提に考えているとは想定できないのである。ライブドアは小さな会社で従業員も千二百名しかいない。解散しても誰も不都合を感じる人間はいないのだ。
検察から洩れ伝わる幹部間の取調の供述態度に差異があり、堀江貴文は強硬で供述調書への署名も拒否しているが、宮内亮治と岡本文人は容疑事実を全面的に認め、容疑となった不正行為を堀江貴文に報告して了承を得ていた事実も認めている。ライブドア弁護団の方針として、容疑事実については検察と争わず、違法性の認識で争うという戦略があり、その方針に基づいた各幹部の供述と見られるが、宮内亮治が容疑を認めて堀江貴文への報告と承認の事実を認めている以上、堀江貴文がそれを否定すれば、幹部間で供述が矛盾する事態になる。そしてすでに証拠は文書で上がっている。この矛盾は公判での堀江貴文の不利に繋がるだろうし、取調での堀江貴文の立場を悪化させる結果になるだろう。本当に二十日後に東京拘置所から出て来られるのかどうか。昨日の社長交代の発表についてもライブドアは堀江貴文の「意思を確認できていない」としている。宮内亮治の意思は確認できるのに、なぜ堀江貴文の意思を確認できないのだろう。
他の三人が全面自供して保釈され、堀江貴文だけが頑固に否認して拘留され続けるのだろうか。昨日の会見では、ライブドアの新体制と堀江貴文の関係がどのようになるのか不明で、今後の捜査の展開(再逮捕・追起訴・拘留延長)に状況を委ねている印象を受けた。ひょっとしたら、外資への売却を考えている新経営陣は、堀江貴文に拘置所暮らしを長く続けて欲しいと思っているのではあるまいか。仮にそうであれば、保釈後の堀江貴文と平松新体制が正面から対決する可能性もある。現在、堀江貴文はライブドアの筆頭株主で、社長を辞任してもその地位は変わらない。堀江貴文の持ち株を凌ぐ数、例えば全株の20%程度を取得しないとライブドアの経営権を掌握できない。新体制はライブドアの株を生かす方針を表明したわけだが、焦点はまさに今後のLD株の行方ではないか。東証はライブドア株を監理ポストに入れながら、同時に今後の寄り付きと大量売買を見込んで取引時間制限の措置に出た。買い手が見つかったという意味なのではないか。
拘置所の堀江貴文が株価を気にしているのは、きっと買収(会社乗っ取り)の懸念だろう。