検察の捜査情報から、ようやく「
脱税」の二文字が出た。ずいぶん長い待ち時間だった。私は捜査開始から三日後の1/19の
記事の中で「捜査の真の狙いは脱税にある」と書いたのだが、いつまで経っても検察からその容疑情報が出て来ず、ひょっとしたら例の野口英昭の「自殺」の件で捜査が暗礁に乗り上げていて、ライブドアの海外資金の流れが追跡できなくなっているのではないかと心配していた。二週間経って、やっと脱税容疑の捜査情報が新聞紙面に活字になり、正直なところホッと安堵している。海外の隠し口座と資金の流れを特捜が完全に掌握したということだろう。このリーク情報は、テレビ朝日がスクープした野口英昭が代表を務める香港の投資会社の話とも符牒が合う。投資事業組合からLD関連株を買った野口英昭の香港投資ファンドが、もう一度マザーズで株を売って、その売却益を香港で資金洗浄して、一部を日本国内に還流し、一部をスイスの銀行口座に送金して隠匿したのだ。無論、その間には何社かパイプを通通させているかも知れないが、基本的にそういう資金の構図である。
だから、香港の証券会社というのはLDのスキームの一部なのであって、その外部にある存在ではない。「
クローズアップ現代」で最初に錬金術スキームが紹介されたとき、それはその時期の検察の説明情報をそのままNHKが正確に報道したものだが、投資事業組合(VLMA1号)は海外の市場でLDM株を売ったという説明になっていて、私はこれは不自然だなと感じていた。なぜなら、LDM株を取引できる市場は日本のマザーズだけであって、外国の証券市場で活動しているファンドがLDMの株券をわざわざ高い値段で買う理由がないと思ったからだ。説明の絵の中に登場する外国の投資ファンド(証券会社)というのは、間違いなくLDの息のかかった錬金術スキームの一部に違いないと確信していたし、そのNHKの放送から二日か三日でファンドの国籍と社名が開示されるだろうと予想していた。実は、その「クローズアップ現代」が放送されたのが1/19(木)で、野口英昭の一報があった日だった。
1/20(金)の
毎日新聞の記事には外国の投資ファンドが香港の証券会社であるという記事が出たのだが、そこからスキームの情報開示は拡延を止め、LDの海外資金の話はピタリと止まって検察から流されなくなった。代わりに検察は逮捕に動き、それと並行して、日本国内での関連企業買収時の不正経理だの粉飾決算だのの情報が事細かく提出されるようになった。違法行為を証拠づけるメールのコピーや関係者の証言が次から次に溢れ出て、スキーム(仕組図)の国内の中身は、情報がオーバーフローして整理できなくなるほど詳細で複雑なものに変わって行った。最初はマネーライフ1社だった不正買収は、すぐにロイヤル信販とキューズネットが加わって3社に増え、堀江逮捕の前後にはトラインとクラサワとウェブ・キャッシングが加わって6社に増えていた。また、捜査当初には2億円だったLDの不正株式取引金額は、いつの間にか40億円になり、一週間後の逮捕時点では総額90億円の規模に膨らんでいた。
これから海外資金ルートの全容が解明されれば、この金額はさらに増大するだろう。6社違法買収の90億円不正利益、ここまでが事前に特捜が証拠を掴んでいた容疑事実で、証券取引法違反(風説の流布・偽計取引・有価証券報告書虚偽記載)の構成要件の中身を埋める。ここから先が被疑者を取り調べながら明らかにする容疑で、特に野口英昭が実行犯として供述しなければならなかったところの海外を舞台にした違法行為だった。具体的には資金洗浄(マネーロンダリング)であり、スイスの銀行の隠し口座への不正蓄財(脱税)である。これらの不正行為は、組織犯罪処罰法違反と所得税法・法人税法違反の要件を構成するものとなるだろう。さらにそこに海外から国内への不正送金が絡んで、外国為替管理法違反の容疑が加わるのが通例である。論告時点で、最低でも4本から5本の法律の適用が確実視される大型の経済犯罪であり、これらの刑を単純加算すると、堀江貴文の場合は懲役15年になる。
一個一個の刑は軽いが、全体を総合すると量刑は相当に重くなる。果たして「戦後最大の企業犯罪」の主犯への求刑と判決はどうなるのか。証取違反と資金洗浄と脱税は確実に有罪となるだろう。裁判で主犯認定されれば実刑が予想される。これから起訴・再逮捕・追起訴と続き、逮捕から十日後の現在は未だ序の口の段階だが、果たして堀江貴文は保釈されて拘置所から出て来るという図はあるだろうか。何となく、塀の中に入ったきり、十年くらいは世の中から姿を消してしまいそうな予感がする。LDの残存幹部と弁護団の方針が不明で、堀江貴文を塀の中から出そうとしているのかどうかよく分からない。堀江貴文が全面自供と一審結審の道を選ぶかどうかも不明である。以上の実刑とは別に、堀江貴文には脱税の追徴金が課せられることが予想される。不正蓄財分が差し押さえられて国税に持って行かれるだろう。検察と国税にとってはここが最も肝要な点で、追徴課税で堀江貴文を身ぐるみ剥がさないと一罰百戒の意味がない。
違法株取引で御用になっても、逮捕前に海外の裏口座に何十億か隠せば安泰という始末になれば、確信犯で続く不正株屋(=偽IT企業)が後を絶たず、すなわち一罰百戒にならないからだ。