昨日(2/14)報道された野口英昭の自宅から押収されたチャート図だが、内容的には特に目新しい情報は含まれていない。この情報リークについては以下の三点の見方をすることができる。最初に、この情報はそれなりに価値のあるもので、
毎日新聞だけがスクープを得られたということは、検察当局と毎日新聞の蜜月関係を推測させる。取材を通じて検察の報道担当と毎日新聞の記者が親しい関係になり、特別な餌にありつけたということだろう。二つ目に、検察と警察の世論対策として、こうした情報を適当に撒いて世論の関心を操縦鎮撫する狙いがある。警察は空港四人の監視カメラ情報をすでに出していて、それについての後始末をやらなければいけない。頬被りしたまま放置し続けるのには無理がある。捜査終了宣言は出したが、世論は納得承服しておらず、いずれ破綻して尻に火が点く事態は目に見えている。遺族が弁護士を立てて
行政不服申立をする姿勢も見せはじめた。当局としては何か手を打たなければならない。
この件は世論の動向が鍵であり、警察捜査の失態を隠蔽して巧く幕引きするためには、それなりにチョロチョロと情報を出して、当局も野口英昭の一件にまだ関心を持っていますよというポーズを示さなければならない。そのことで、煮え滾っている警察不信を多少とも和らげる方向に持って行くことができる。これが二点目である。第三に、捜査が投資事業組合の方に向かっていますよという合図を世論や関係者に示しているということがある。これまではLD内部の違法株取引と不正経理が捜査の焦点だったが、これから問題の投資事業組合について本格的に捜査の手を伸ばすぞというシグナルが発信されたのだろう。立花隆は、今回の歴史的な検事百名体制の捜査布陣の意味について、すなわち闇の世界への切り込みにあると
予言している。資金洗浄と脱税の捜査立件に際しては、投資事業組合とその先の資金経路が決定的に重要であり、我々は一刻も早くその真相を知りたい。投資事業組合に関わった政治家の名前を知りたい。
ところで、このチャート図だが、私はこの現物がそのままの形で野口英昭の自宅から押収されたという報道は信用していない。野口英昭の私有PCの中にチャート図のファイルが格納されていたとは思わない。この図は検察が自分の手で文書作成したものだろう。書き込まれている情報の中身は押収資料から得たもので、金額も会社名も、資金や株式のフローも正確なのだろうが、そっくりこのままの図が文書で実在していたとは思わない。このチャート図はPowerPointで作成した文書資料である。検察のこれまでのリーク情報は全てPowerPointのフローチャート図を使ったものだ。最初のマネーライフ買収の証取法違反容疑を説明した時点からそうだった。検察の報道担当はPowerPointのハンドリングにこなれていて、捜査情報をPowerPointのプレゼンテーションシートに落とし込んで、リークの場で記者たちにPCを操作して説明を与えている。私が想像するに、検察の報道担当は新聞記者に(証拠として残る)ペーパーを渡していない。
印刷物は手渡さず、現場にPCとプロジェクタを用意して、PowerPointを使ってプレゼンテーションをしているのだ。リークは秘密裏に行われる。リークの場所もメンバーもコンフィデンシャルである。公式のプレス発表ではないから、会場は霞ヶ関の検察庁内部の会議室ではないだろう。近くのホテルの一室を仮名で使用しているはずだ。記者たちは極秘で集まり、その場でプロジェクタからスクリーンに投じられたPowerPointのチャート図をノートに筆記しているのである。リークを聞きながらメモを取っているのだ。説明は早口で証取法の専門用語が駆使された官僚口調のものであり、しかもメモを取りながら聴き取らなくてはならないから、当然、参加記者の中で理解に差が出てしまう。今回は毎日新聞の記者がリーク参加者の中で優秀だったということだろう。説明が理解できなかったら質問もできない。要所を押さえた質問でなければ気位の高い検察官僚はバカにして応じないのだ。初歩的な質問をしたら、証取法を勉強してくれと突き放されてしまうだろう。
そんな現場を想像する。これもさらに想像だが、証券取引関係の知識で毎日新聞記者の後塵を拝しながら、それでも検察官僚以上にプライドの高い朝日新聞記者が、現場で検察の報道担当に食ってかかって、もっと分かりやすく詳しく説明してくれとか、検察には国民に対して説明する義務と責任があるはずだなどと、口惜しまぎれに言い出したのではないかなどと、映画の一コマのような空想をして一人で楽しんでしまう。同じほどプライドの高い日経新聞記者は、経済事件でありながら知識で毎日新聞記者に負けた恥を押し殺して、ここで喚き出すと恥の上塗りだから、朝日新聞記者の真似をせず、黙って知ったかぶりを決め込んで、静かにポーカーフェースで座っているのではないかとか..。面白い映画の脚本ができそうだ。一度でいいから、この検察の情報リークの現場に同席してみたい。朝日新聞は何とかライブドア事件報道の体勢を持ち直そうとして、最近は詳細なチャート図を組み上げて紙面で紹介するようになった。現場で若い記者がメモし損なったチャート図を、先輩の幹部が検察幹部に頭を下げて貰ってきたのではないかなどと意地悪く考えてしまう。
二十年後くらいでいいから、現場に居合わせた記者たちは、リーク現場の真相を教えて欲しい。