週刊文春の今週号に偽メール事件に関する新事実が載っている。それは特に偽メールの作成者とされるライブドア関係の元社員についての情報で、一つはこの元社員が西澤孝から脅迫されてメール作成に及んだ事実と、もう一つはメール作成の協力費として西澤孝から十万円を受け取った事実である。これまで謎であったメール作成者と西澤孝との関係がわずかながら明らかにされた点で注目される。この情報を週刊文春の記者に提供したのは、記事中では「ある自民党議員」だが、事件報道の経緯を知るわれわれが読めば、この「自民党議員」は平沢勝栄以外に考えられない。平沢勝栄が、これまで隠してきた情報の一部を週刊誌にリークしたのである。平沢勝栄は、テレビで、メール作成者であるライブドア関係の元社員と西澤孝との間には「ドロドロした関係」があり、そして「現金が渡っている」と言っていたが、その内容が今回ようやく明らかにされたわけで、ドロドロした関係の中身とはメール作成者の
不倫をネタにした
脅迫だった。
メール作成者は不倫の事実を西澤孝に掴まれ、それをバラすぞと脅されて偽メール(情報)の提供に及んでいたのである。「
昨年の八月ごろのことだった。(略)ある日、A氏が会社から出ると、西澤氏が会社の前で出てくる社員を捕まえて取材をしていた。A氏も声をかけられ、知り合いになったのだという。(略)しかしある日、西澤氏は豹変。A氏にこんなことを言い出したという。『不倫しているんでしょう? バラされたくなかったら、自民党とライブドアとの関係で何かネタをくれ』。(略)そして西澤氏に服する形で、ついに今回のメールに関する情報を出すことになったのだという(P.33-34)」。さらに、「
その情報を渡した際、西澤氏はA氏に謝礼を渡したという。場所は六本木の喫茶店だった。金額は十万円(P.34)」。このとき西澤孝はメール作成者に対して「
俺はこの十倍、民主党からもらっているんだ」と言っている(P.34)。一部に流れていた「民主党から西澤孝に百万円」の噂が、今回初めて自民党関係者の証言として活字になった。
メール作成者の不倫の内容が具体的にどういうもので、その事実を西澤孝がどのように入手したのかについては、文春の記事は何も触れていない。が、記事には平沢勝栄にメール作成者と西澤孝との関係の情報を提供した「金融関係者」なる者の証言があり、そこでは「
ライブドアファイナンスに勤める女性から相談を受けている。堀江氏のメールの件で『自分の知り合いの男性が偽メールにかかわってしまった。その男性はライブドアの元社員で、西澤氏にライブドア関連で何か(ネタは)ないか、としつこく迫られて、つい情報を提供してしまった』と告白した(P.32-33)」と証言されていて、読者は容易にこの女性がメール作成者の不倫相手なのではないかという想像を抱く。この女性の存在は以前から情報として週刊誌にも出ていた。だとすれば、西澤孝は一体どうやってその不倫情報に手が届いたのか興味津々だが、真実が全て明らかにされることはあるだろうか。いずれにせよ、「ドロドロ」の中身は
不倫と
脅迫と
買収だった。
この記事についての評価だが、私は、記事は一部は真実を含んでいるものの一部には嘘があると見ている。すなわち真相の全体が隠されていて、自民党側に傷の付かない、都合のいい story になっている。特に最も重大な隠蔽は、記事の中に平沢勝栄がどのようにして偽メールを入手したのかが一言も触れられていない点だ。記事では、平沢勝栄に繋がる「金融関係者」がこの情報(西澤孝による脅迫と買収)を得たのは2月20日だとしているが、記憶では、2月20日頃にはすでに平沢勝栄が偽メールのコピーを入手して、テレビのワイドショーのスタジオで民主党に対する反駁と逆暴露を展開しはじめていた。その事実との整合が取れない。週刊文春の今回の記事では、偽メールは「メール作成者」ではなく西澤孝本人が自らの手で作成したことになっている。ライブドア関係の元社員は脅迫され買収されて情報提供の形で西澤孝に協力しただけで、実際のメール作成にはタッチしていないという事実説明になっている。
もしこの話が真実であれば、平沢勝栄が偽メールのコピーを入手できる可能性がない。論理的にも物理的にも不可能である。「メール作成者」が単に情報提供だけの役割にとどまり、偽メール作成の作業が西澤孝のところで完結しているのであれば、そのコピーが平沢勝栄の手元に届くはずがないのである。入手しようがない。この点で週刊文春の記事には不自然な点が残り、それはそのまま平沢勝栄と自民党側の情報操作疑惑に繋がるものである。西澤孝に全ての責任を推し被せて、偽メール捏造の責任を「メール作成者」たるライブドア関係者から剥離させようとする政治的意図を強く感じ取る。すなわち、それこそ自民党側からの「メール作成者」への謝礼と支援の一部を成すものではないか。自民党はこうした周到な情報操作によって、武部勤二男と堀江貴文の関係を何も無かったかのように仕立て上げ、一切が西澤孝の妄想と暴走の所産であるように見せているが、この情報操作は逆に武部二男への疑惑を増す。
だがその前に、それより何より、この記事によって窮地に立たされたのは前原誠司と民主党であり、これまで西澤孝との間での金銭授受について否定してきたものが、この記事の暴露によって重大な疑惑が突きつけられた点は否めない。金額も具体的に百万円と出ていて、さらに百万円授受の話を西澤孝が喋った時間と場所まで特定されている。何もファイナンスがされていなければ、西澤孝が「メール作成者」に十万円を手渡すはずがない。平沢勝栄が一貫して金銭疑惑を言い続けてきた根拠がここで示されたわけで、民主党は明日(3/31)の検証結果報告の中でこの点に触れて釈明をしなければならなくなった。「すべて西澤孝の虚言癖と一人芝居」の説明(シナリオ)で国民が納得するかどうか。4/4に予定されている証人喚問も、焦点はこの百万円の事実の有無に絞られた感がする。記事の中で、武部勤が2/24にオフレコ取材で記者の前で言った興味深い発言が掲載されていて、それは次のような発言である。
「
『君たちも知っているんだろう? 誰から出た話かってことは』 -例の怪しげなジャーナリストのことですか? 『そうではなくて、誰がそのジャーナリストにやらせたかってことだよ。こちらは全部調べて、だいたい分かっている』(P.34)」。つまり、武部勤の言っていることは、偽メールは西澤孝が捏造して民主党に持ち込んだのではなく、民主党が百万円を西澤孝に支払って作成させたということである。自民党の手元に集められた情報は、その疑惑を事実として証明する有力な証拠となり得るものだが、前原誠司と民主党はこの疑惑を払拭するに十分な根拠を提出することができるだろうか。明日(3/31)の検証報告が注目される。