昨日あたりから民主党のそれを表わす四字熟語が、急に「挙党体制」から「挙党態勢」に変わったように感じたのは私一人だけだろうか。
私が漢字を間違ったのかなと気になって調べたらそうではないようだった。読売新聞とTBSは「
挙党体制」を使っている。「
挙党態勢」の方は、朝日、日経、産経、NHK、テレ朝と多く、多数に倣ってブログでも「挙党態勢」の方を使うことにするが、この二つは言葉の意味が少し違う。今回の政治ニュースについては、「挙党態勢」でも「挙党体制」でも、どちらを使っても間違いではないと思うが、どれだけの報道関係者がその言葉の意味の差異を敏感に捉えているだろう。二つを使い分けている人は多くないはずで、「体制ではなくて態勢が正しいのかなあ」と感じる程度が普通の記者の言語的感性ではないか。「挙党体制」はスタテティックでストラクチャードな意味が含まれるが、「挙党態勢」はダイナミックでテンポラリーなものである。時間軸の長さが違う。「体制」は長い時間続くものだが、「態勢」は言わば瞬間的なものでよい。
民主党の立場に立って考えたとき、その報道表現を「態勢」の言葉遣いで果たして許していいのだろうかと思う。この場合は、日本語の言葉の厳密な意味はともかく、意図的に、政治的に、「
態勢」ではなく「
体制」の方を採用して統一した方がよいのではないか。そのように広報担当が動いて、プレスをドライブするべきではないかと思うのである。時間軸がテンポラリーなニュアンスが残るのはマズいだろう。いかにも一時的に自民党に対抗する「挙党態勢」が出来ればいいといった、アリバイ的で消極的なイメージが残る。新しく立ち上がった新体制が脆弱で生命力の弱いものである印象が影を落とす。応急的に挙党態勢が出来たが、時間が経てばすぐに変容し破綻するといったマイナスの予感を抱かせる。「挙党体制」の言葉を使えば、固定的で、壊れにくいステイブルなイメージでそれを受け止められる。いかにも堅固な新体制が構築されたという感じがする。ここは「態勢」ではなく「体制」を使わせるべきだっただろう。そういう配慮はなかったのだろうか。
ここから先は邪推なのだが、ひょっとしたら、敢えて民主党の関係者が「体制」ではなく「態勢」を使わせるように仕向けたのではないか。私が「挙党体制」の言葉を使ったとき、念頭にあったのは、まさに具体的な人事体制がコンプリートされた組織の姿であり、すなわち小沢一郎が代表になった場合には菅直人を幹事長に据えたところの、本格的な組織体制のイメージだった。菅直人は小沢一郎を幹事長にすると言っているが、小沢一郎は菅直人を幹事長にするとは言っていない。プレスをチェックする現在の広報担当は恐らく鳩山由紀夫の配下であり、鳩山グループは小沢一郎を支持している。小沢一郎が代表になり、菅直人が幹事長から外された場合には(代表代行や政調会長のポストがあてがわれた場合でも)、その新体制は「挙党体制」とは言えないだろう。「挙党態勢」ではあるかも知れないが。意地の悪い見方だが、二つの言葉遣いを見ながら、そのような政治の裏を考えるのである。だから「挙党態勢」では、いかにも軽く、テンポラリーで、アリバイ的だ。
そして逆に、「挙党体制」ではなく「挙党態勢」の言葉で言い表される方が、民主党の真実を確実に衝いているとも言える。どちらが代表になっても、そのときの民主党は磐石で強固な挙党体制にはならず、脆弱な一過性の挙党態勢に終わってしまうに違いない。小沢一郎には自分の理想の民主党の組織体制があり、そこには菅直人幹事長はいない。菅直人を幹事長に据えるのは妥協である。今度の代表選が「政治生命を賭けた最後の戦い」の決意であるなら、なおさら選挙勝利後の人事は自分の理想に忠実なものでなければならないだろう。話し合いで、党の圧倒的多数から懇請される形で代表に迎えられる局面しか想定していなかった小沢一郎にとって、菅直人の出馬と挑戦は意外で邪魔なものであり、代表選挙で演説をさせられたり、テレビ局に引っ張り回されてスタジオで話をさせられるのは面倒臭くて不愉快なのだ。そういうシチュエーションで比較されたら、自分が菅直人に見劣りするのは確実であり、菅直人の幹事長就任を拒否できなくなる。
だから逆に言えば、菅直人はそれを狙っているのであり、出馬しなかったら幹事長になることさえできないと踏んだのだろう。実際のところ、政策弁論の説得力で菅直人に勝てる人間は民主党の中にはいない。テレビ出演でそれが鮮明になり、また代表選で票差を詰めれば、小沢一郎も菅直人の幹事長を拒絶できなくなるだろう。もし拒絶すれば、それは挙党体制どころか挙党態勢ですらなくなる。それが菅直人の戦略である。また、話し合い決着で土下座的に小沢一郎を代表に認めてしまえば、後の人事も政策も、完全に小沢一郎の側近がフリーハンドで牛耳るのは必定で、その場合、冷や飯組に回る前原誠司や仙谷由人や枝野幸男が造反を起こして党から飛び出る不測の事態を起こしかねない。それを避けるための幹事長就任でもある。面白いのは、朝日新聞(テレビ朝日)が必死になって小沢一郎に菅直人幹事長を容認するように迫っていることで、(言葉は「挙党態勢」の方を使っているが)民主党の挙党体制を誰より強く望んでいるのが朝日新聞だということである。昨日(4/6)は、社員の渡辺宣嗣と古館伊知郎を総動員して小沢一郎に決断を促していた。
まさに朝日新聞は民主党のオーナーそのものだ。