国連海洋法条約が、排他的経済水域での船舶の航行の自由と水路測量などの科学的調査の自由を全ての国に認めているにもかかわらず、日本の測量船による海洋調査に対して韓国政府が拿捕を含む厳しい姿勢を示している根拠がよく分からなかったのだが、
調べてみると根拠は韓国の国内法だった。仮に測量船が海域で拿捕され、日本政府が事件を国際海洋法裁判所に提訴した場合は、韓国政府による国際法違反となる。が、韓国の並々ならぬ決意は、アナン国連事務総長あてに「宣言書」を送付して、日本の海洋調査計画を国連海洋法条約に基づく紛争解決手続きの適用除外案件にするよう求める
ところまで手が打たれていて、仮に紛争が勃発した場合、それは単なる偶発的な事故ではなく、国家主権の防衛そのものである旨が示されている。提訴を受けた国連も、緊迫して事務処理的な判決や裁定は出せない状況になるだろう。現在、竹島(獨島)はまさに韓国の国家と国民の統合の象徴であり、中国の万里の長城と同じであり、日本の皇室と同じ意味の存在である。
盧武鉉大統領は、4/20の演説で「
過去の侵略戦争で得た占領地に対する権利を主張する人たちがいる」と述べ、「
ひたすら『和解しよう』との言葉だけでは解決できない難しい状況に直面している」と日韓関係についての厳しい情勢認識を示した。この発言は4/20のNHKの7時のニュースでも放送された。大統領の主張は一年前に発表した
談話から変わっていない。私はこの談話と大統領の姿勢を基本的に評価し支持する立場であり、私も一年前の主張から特に変わってはいない。が、竹島が「侵略戦争で得た占領地」であると定義してよいかどうかは微妙で、日露戦争の性格づけの問題とも絡み、簡単に肯首できないし、竹島を日本の領土であるとする外務省の
主張も十分に正当で説得的であると私は考えている。だから簡単に言えば日韓双方の言い分とも尤もなのであって、領土の問題としては、私自身は「紛争地域」としてそのまま現状を継続させる従来の外務省の対応でよかった。この問題が重大な外交問題になったのは、昨年の「竹島の日」条例の制定からである。
政権が右翼に牛耳られ、外交が中韓と激しく敵対する右翼的方向にシフトされたために、この五年間の間に日韓関係と日中関係はボロボロの状態になった。その責任は全面的に日本の側にある。ところが日本のマスコミは政権を批判しようとせず、韓国と中国を批判し始め、小泉政権を擁護する論調を機軸に据えるようになった。いま政権を批判する報道番組は筑紫哲也の「ニュース23」だけだろう。右翼ファシズムだ。一年前と較べても、その傾向はより顕著で、ネットの中も狂暴で激越な嫌韓一色だが、盧武鉉大統領の対日批判の正論を支持する声は殆ど見られない。
ブログは筑紫哲也と同じく異端的で例外的な存在になった。日本のマスコミは、隣国の元首が日本国民に呼びかけるメッセージに真面目に耳を傾けようとせず、一方的にそれを「国内向けの人気取り」だと歪曲し、「選挙目当ての点数稼ぎ」だと誹謗して不当に矮小化するばかりだ。日本の政権と国民の政治意識が日を追う毎に右傾化の度を深め、戦前へと逆戻りしている状況は誰が見ても明らかな社会的事実である。
それは東アジアの人間にとってはきわめて危険な現実であり、警戒して警鐘を鳴らすのは当然の対応だろう。盧武鉉大統領による日本に対する憂慮と批判の発言は、外交として正鵠を射たものであり、そう言い得る根拠は、日韓関係の憲法とも言える村山談話にある。日中関係の基本法は72年の
日中共同声明だが、日韓関係の基本法は95年の
村山談話である。すなわち、「
わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします」「戦の日から50周年を迎えた今日、わが国は、深い反省に立ち、独善的なナショナリズムを排し、責任ある国際社会の一員として国際協調を促進し、それを通じて、平和の理念と民主主義とを押し広めていかなければなりません」。
十年前にこう言っているのだ。韓国に対する侵略と植民地支配の歴史を反省し、謝罪を表明し、二度と独善的なナショナリズムには戻らないと誓っているのである。これが二国間の基本的前提だ。靖国神社を参拝する行為こそが独善的なナショナリズムの行為そのものではないか。村山談話を堅持し尊重しながら靖国神社に参拝するという態度はあり得ない。どのように言い繕ってもそれは欺瞞であり嘘である。どちらかを捨てねばならない。村山談話を堅持するのなら靖国参拝は放棄しなければならない。靖国参拝を続けるなら村山談話は破棄しなければならない。そして日本の現在の状況は、事実上、政権もマスコミも国民も、村山談話(日韓基本法)を廃棄した状態にある。であるなら、韓国の政府と国民にとって日本はまさに現実的脅威そのものであり、靖国的な侵略国家・戦争国家の前段階であり、韓国の政治指導者がそれに対して警戒と警告を発しない方が異常というものだろう。日韓関係を前向きに再構築するためには村山談話の基本に正しく戻らなくてはいけない。政府だけでなく国民も。
そうでなければ、近い将来、日本は韓国とも冷戦状態になる。一触即発の軍事的緊張関係になる。