盧武鉉大統領が竹島問題に関する特別談話を発表した。盧武鉉大統領が日韓関係について公式に主張を発表するのは初めてであり、韓国の大統領が、国内で、日韓関係についてメッセージを発信するのも恐らくこれが初めてだろう。しかも単なる書面のリリースではなく、テレビで生中継しての異例のものだった。テレビで確認したかぎり、盧武鉉大統領は下を見て文書を読み上げるのではなく、正面のカメラに向かって演説しており、今回の発表に対する並々ならぬ決意が示されている。しかも中身がきわめて強硬だ。これまで、外国の政治指導者が、特に直後の訪日等の予定もないのに、日本との外交上の問題について自国内で特別な談話を発表するのを聞いた経験がない。異例中の異例のものである。特に盧武鉉は大統領であり、単なる政治指導者ではない。国家元首である。日本であれば天皇陛下の地位にあたる。隣国の元首が、国家を代表して、日本の政府と国民にあてて重大なメッセージを発表した。襟を正して傾聴すべきだ。
この特別談話は前日から予告されていたものであり、朝の9時半にテレビで生中継というスケジュールも半日前に明らかにされていて、ニュースとして日本国内に伝わっていた。だから私もNHKの衛星放送が番組を編成して中継を入れるだろうと予想して、期待して待機していたのだが、NHKは中継放送を入れなかった。これは非常に不可思議な事実であり、事の真相を訝しんでしまう疑惑である。安倍晋三から手が回って中継を阻止されたのだろう。例の従軍慰安婦の番組の一件があり、また民営化と不祥事で突き上げられて竹中平蔵の私的諮問機関に弄られている最中であり、権力者の安倍晋三にNHKは頭が上がらない。しかし、このような日本にとって重大な演説を生中継しないということがあるだろうか。ブッシュ大統領のイラク戦争開戦演説や戦勝記念挨拶は、あれほど丁寧に生中継していたのに。正午のニュースではきわめて短く、しかも竹島に関する部分だけを編集して、攻撃的な印象になるように意図的に情報操作をしていた。
大事なのは、単に竹島の領有権を主張した部分だけではなく、現在の日本の右傾化状況全般を正面から批判したところにあり、すなわち総理大臣の靖国神社参拝や反動的な歴史教科書の採用などに顕著な、現在の日本の「過去の侵略の歴史の美化」の問題状況が厳しく批判されている点である。この大統領の批判は正鵠を射たものだ。本来なら、日本の野党や、ジャーナリズムや、アカデミーが、政権と国民に向かって正しく言わなければならない事である。国内に野党が存在せず、政権を監視するジャーナリズムが消えたため、隣国の指導者がその
代わりを努めてくれている。盧武鉉大統領の認識と発言は、まさに日本の政治状況を映す鏡なのだ。日本の政治がここまで異常で危険な水準に達しているから、非常を告げる警鐘が鳴らされているのである。日本人が韓国人に向かって言っている「独善的ナショナリズム」は、実は鏡に映った自分の顔に他ならない。村山談話を守って日韓友好をしていれば、このような事態には決してならなかった。
現在、右翼掲示板等に書き散らかされているネット右翼の韓国に対する侮辱と悪罵の言語群は、まさに眩暈と嘔吐を催すほどの常軌を逸したものであり、偏狭で蒙昧で醜悪なファナティシズムの常態化であり、日本人であることを羞恥してしまうような程度と内容のものである。「嫌韓」という言葉は状況を正しく表現していない。嫌韓ではなく、蔑韓であり、嘲韓である。露骨で暴力的な差別感情の唾棄であり、民族に対する偏執的な嗜虐衝動の横溢である。ネットが始まった95年頃はこのような厭わしい病的な思想状況はなかった。97年頃から右翼掲示板の隆盛とともにこのような傾向が勢いを増し、年を追うほどに酷くなり、それが多数化し、やがて政権がその性格に変わり、テレビと新聞までその右翼的性格が常態になった。右傾化を批判する人間は、左翼のレッテルを貼られてマスコミの世界から放逐された。政権と右翼に追従し、左翼批判の恫喝を年中吐いて、国民の常識を右へ右へと暴力的に扇動する人間しかその世界で生きられない。
盧武鉉大統領の主張は基本的に正しい。
村山談話の基準に沿ったもので、司馬先生が生きておられたら間違いなくそう言うだろう。大統領の談話が不当であると言うのなら、日本政府が十年前に発表した村山談話も不当である。昨年、麻生太郎が外相になって、恐らく米国の指図もあったのだろうが、攻撃目標を中国一国に絞って、韓国とはなるべく協調関係を修復しようとする動きがあった。靖国参拝問題でも、韓国からの批判については無視して、中国からの批判に対して猛然と噛みついて攻撃するという術策を小泉政権はやっていた。拉致問題での日韓協調の策動もその一つだったが、あえなく一蹴されたということだろう。日本のブログで韓国のマスコミに呼びかけるのも妙だが、韓国の
新聞は盧武鉉大統領を批判してはならない。主権と独立の防衛は国家と民族にとって何より重要なものだ。ホーチミンは「民族の自由と独立ほど尊いものはない」と言った。結束して日本の右翼排外主義と対決せよ。歴史認識での妥協は再びの侵略の容認に繋がる。
日本右翼による韓国の民族と歴史に対する侮辱と嘲弄と卑蔑を許してはならない。