昨夜(4/25)のNHKの7時のニュースでは、盧武鉉大統領の特別談話が紹介され、関連する報道がなされたが、大統領の竹島領有に関する強硬な主張が印象的に流された後で、すぐに阿部渉アナが引き取って、「この談話の真意は何でしょうか」とソウル支局長に振り、例によって、「統一地方選を控えているため」とか、「一年前に大統領府のHPで対日姿勢が弱腰だと批判されたから」という理由説明に収めていた。最近の日本のマスコミは、韓国や中国から靖国問題や歴史認識で批判されるたびに、すぐに「その思惑は」とか「その真意は」という捉え方に報道をスライドさせて、問題の本質から逃げようとする。批判を批判として受け止めない。何か別の国内政治上の目的や意図があって、その手段や捌け口として日本の靖国問題や歴史認識が利用されているという認識の仕方で報道を纏めている。重大な二国間の外交問題を外交問題として正面から受け止めようとせず、本質を逸脱した別の問題にスリカエて説明をゴマカシている。自己欺瞞している。
日本側に原因のある重大な外交問題が発生しているのに、問題を正視せず、それを不当に矮小化し、責任を転嫁して、相手国の内政問題に解消して済ませている。問題から逃げていて、問題のスリカエで自己正当化し、国民を自己欺瞞に導いている。卑劣で狡猾な政治態度であり、何の問題解決にもならず、相手国の不信と憤怒を増幅させるだけだ。中国の反日デモのときもそうだった。中国の民衆の不満の捌け口だと言ったり、共産党がガス抜きに利用などという理由づけを加えて、日本の右翼とマスコミは問題を解説し納得していた。それを自分の問題だとは捉えず、原因が日本にあることを言わなかった。日本人はいま自分自身を見つめる正常な理性を失っている。集団的狂気の中で一人一人が自己欺瞞して現実から目を逸らせている。小泉首相は傲慢にも韓国に対して「後で後悔するぞ」と言い放ったが、後悔するのはどちらだろうか。
その韓国の統一地方選はすぐに終わって結果が出る。もし仮に盧武鉉大統領の今回の特別談話の「真意」が、NHKが報道するとおり選挙目的の一時的なものであったのなら、選挙が終わった後で大統領は態度を一転させて、日韓友好の方向に外交の舵を取るはずだが、そうなるはずだが、そんな事が果たしてあるのだろうか。あまりにピンボケした見え透いた欺瞞報道ではないか。この政治は決して一時的なものではなく、問題が滞積された挙句の覚悟と決断の国家的選択なのだ。現在の日本の「嫌韓」状況が大統領府の情報分析の中に入ってないはずがない。日本の情勢の変化には誰よりも韓国は敏感であり、正確なアンテナとセンサーを持っている。日本の「嫌韓」が滞積された重層的で構造的なものであり、政権とマスコミと国民意識を固く押し包み、簡単に覆せない思想的常態になって日本の外務省を方向づけていることを大統領府は理解している。
正確なアンテナとセンサーを持っていなければ、日本の情勢分析を少しでも見誤れば、甘い状況判断で看過していれば、韓国は再び日本の侵略によって国を失う危機に瀕するのだ。これは韓国の国民の誰もが持っている共通の観念だろう。日本は侵略によって他民族を皇民化した経験はあるが、外国の干渉を受けて国家を分裂させたり国家を滅亡させた経験がない。韓国にはそれがある。侵略は平時の外交から始まるのであり、すべて合法的な既得権と既成事実の積み重ねの上で最終的に主権は奪い取られる。近い過去に亡国の苦い経験を持つ韓国が、主権の防衛に神経質になるのは当然で、特に相手が日本であればなおさらのことである。それが自然で、そうでなくてはならないし、特に北朝鮮と韓国の二つに国家が分断されている現在、韓国にとって主権の防衛はどれほど緊張感と警戒感を持って身構えていてもおかしくない重要事である。
具体的に言おう。例えば日本が憲法を改正する。防衛と称して戦争できる国になる。国民から支持を集めている石原慎太郎や安倍晋三が言っているのは、北朝鮮の拉致は侵略であり、国家主権の侵害だから、直ちに積極的防衛行動に出よということであり、戦闘機と揚陸艦による武力行使で拉致問題を解決せよという強硬論である。金正日政権の武力打倒と占領軍部隊による拉致被害者探索と救出。ネット右翼の「常識」と「正論」だが、そういう最悪の方向に進む可能性も最早ゼロとは言えない。もしこの想定がそのまま実現すれば、朝鮮半島(韓国の国土)の北半分に日本の自衛隊が進駐し、北半分を日本が軍事占領するという異常事態になる。獨島の主権どころではない。実際には、米国と中国の動きがあり、日本だけで北朝鮮と戦争する図はあり得ないが、スタテイックなシミュレーションとしては十分に考えなければならない近未来の軍事である。
韓国の未来と安全保障は、日本の右翼的動向が今後どうなるかに大きくかかっている。私が韓国の大統領でも、同じ行動を選択し、同じ警告と懸念を日本国民と韓国国民に発しただろう。日本が北朝鮮に武力行使すれば、自動的に韓国は日本と戦争状態に入る。避けられない。かりそめにも日本による北朝鮮への武力攻撃を座視したならば、その政権は一日で転覆させられるだろう。正規軍より先に義勇軍が38度線を突破、北に入った地上軍(陸自)と激突する。韓国の平和を守るためには、韓国の国民の生命と財産を守るためには、日本を憲法9条と村山談話の線に止めねばならない。これ以上の日本の右傾化を阻止しなくてはならない。それが韓国の指導者の使命であり責任である。だからこそ、韓国大統領府は日本政治の野党なのであり、日本で護憲を主張する者は、同じ平和の利害を共有する者として、盧武鉉大統領の行動を支持しなければならないのである。村山談話は両国国民の平和の生命線なのだ。