結論から言うと、竹島の領有権を韓国に譲渡して、その交換として「東海」の地名表記を永久に放棄させるというのが私のプロポーザルである。竹島領土と日本海表記の交換。韓国国内の全ての地図表記を「日本海」と書き改めさせ、日本海を和解と友好の海にする。竹島(獨島)東南沖10キロの海上にEEZ(排他的経済水域)の境界線を引き、そこから朝鮮海峡中央に延長線を引いた直線を日韓の
国界とする。手元の地図で確認すると、現在、鬱陵島と竹島の間に引かれている日韓国界線は、この場合、75キロほど隠岐島方面すなわち日本寄りに移動する。地図で見ても分かるとおり、竹島はまさに日本と韓国の真ん中に位置していて、日韓の中間に線引きする場合は竹島の上に線を引くのが都合がよく、EEZの境界線としてはこの考え方を採用するのが妥当だろう。竹島は断崖絶壁の孤島であり、人も住めず、土地利用は難しく、島そのものに経済的価値はない。まさに韓国が言うとおり象徴的な意味しかない。
経済的価値は周辺海域の水産資源のみであり、島根県の漁業関係者が求めているのも竹島の土地利用権ではない。経済水域で折り合えるならば、象徴的価値としての竹島は韓国に譲り渡しても問題はないのだ。その代わり、まさに象徴的価値としての日本海の名称は日本の要求を貫徹する。両名併記は許さない。外務省のホームページには「日本海呼称問題に対する日本政府の取り組み」の
サイトがあって、ここで詳しく問題の経緯を知ることができるが、 一読して、韓国側が90年代以降ジワジワと実績を積み重ね、欧米で「東海」の呼称を普及浸透させてきた過程を窺うことができる。韓国側の攻勢は特に2000年代に入って顕著な成果として現われ始めていて、例えばマイクロソフト社の「百科事典エンカルタ」では二つの呼称を併記していて、外務省の抗議に対しても、第一義的呼称を「日本海」、第二義的呼称を「東海」をするという見解を回答している。単一表記に修正しなかった。深刻な現状である。
こういうマイクロソフト的な動きが既成事実になる。外務省が日本海呼称の防衛のために努力しているのは分かるが、あと十年経ったら果たして状況はどうなっているか。この問題の構図を典型的に示しているのが、今回の海底地形名にも関わるIHO(国際水路機関)で四年前に起きた騒動で、韓国側が両名併記を強硬に主張して運動した結果、IHO理事会は「日本海の名称については調整がつかない」と判断、機関が発行する「大洋と海の境界」の最新版から日本海を除外するという異例の決定を加盟国の投票で採決しようとした。日本側の抗議で投票は回避されたが、問題の解決には至っておらず、火種は残って依然として燻っている。韓国側も一切妥協する構えはなく、さらに攻勢を強めるのは確実で、また、経済大国となって国際社会で発言力を増しつつある中国の思惑もあり、IHOの理事会はこの問題で頭を悩ませているだろう。本来は技術的な性格の国際機関であるIHOが日韓外交戦の主戦場となっている。
四年前にIHOで熾烈な外交戦が繰り広げられていたとき、時恰も日韓W杯の共催の時期であり、この「東海」呼称問題とW杯開催地問題は、欧州の関係者の脳裏では同質の問題(=複雑な歴史問題が入り組んだ日韓の揉め事)と映っただろうし、W杯も共同開催にしたんだから海の呼称も両名併記でいいじゃないかと単純に考えた人間も多かったに違いない。W杯開催地問題は、われわれ日本人からすれば、どう考えても日本が過剰に妥協を強いられた格好であり、共催は確かに全体的に見ればよい結論だったかも知れないが、国際社会で韓国と正面からコンペティションすると、こういう不本意な結果を裁定されるぞという教訓になったのではないかと思われる。韓国が日本海呼称問題でやっている戦術は、簡単に言えば、まさにW杯開催地問題の決着方式と同じスタイル(思想)の標準化なのだ。日韓で揉める問題については双方妥協の両論併記でという解決提案である。これは第三者の欧米の人間には説得力として了解される。
日本人は竹島を断念し、韓国人は東海を断念する。どちらも重い。重いが、これは妥協であり、両国の国民が隣人として末永く仲良く暮らしていくための知恵である。これが一つの平和的な決着方式であり、日韓関係を次へ導くためにはこの跳躍しか思いつかない。が、これは日韓関係の問題解決としては有意味なのだが、日本外交全体から考えるときわめてリスクの大きな一手なのである。それは何かと言うと、外国によって不法占拠(実効支配)されている大きな領土が日本にはあって、それは
北方領土だが、その問題解決に影を落とす懸念がある。竹島でも譲ったのだから、クリルで譲ってもよいではないかという主張が成立する余地を与えかねない。面積においても資源においても北方領土は小さな竹島とは比較にならないのだが、ある意味での「領土放棄」の外交実績ができてしまう。そこが懸念であり、簡単に竹島を放棄できない日本側の事情がある。だから戦略的に考えた場合、北方四島の返還が先なのだ。竹島問題は本当は後なのだ。
まず北方領土の全面返還を達成するため、他の周囲の外国とは問題を起こしてはいけないのである。それが戦後の日本外交の一貫した戦略と態度だった。竹島問題について、法的正当性と立場的優位性を持ちながら、決して無理に事を荒立てることはしなかったのはそういう事情がある。右翼が惹き起こした日韓問題の解決のため、悲願であった北方領土回復の課題を順位後退させなければならなくなった。つまり返還が遠のいた。今は北方領土よりも日韓関係の修復と基礎固めの方が重要だ。やむを得ない。右翼に政権を牛耳らせたからこうなった。右翼は別に韓国と戦争するつもりはないのである。改憲をしたいのだ。すべて改憲のために道具利用しているのである。韓国のナショナリズムに火を点けているのは、別にそれが面白いからやっているのではない。軍事侵略が目的ではない。再植民地化がしたいわけでもない。国内政治の目標があるのだ。改憲のためだ。改憲するために、韓国と中国の中に「反日」を醸成しているのである。